最強の暗黒龍は喪女にゾッコン ~VRMMOの裏ボスが子作り前提で求愛してきました~
地下から吹き上げてくる冷たい風が肌を撫で、長い髪を弄ぶ。
一歩階段を降りるごとに、私の心拍数は上がっていっている気がする。
この瞬間の為に、武器、防具、必要なアイテム、確実に勝つための戦略の全てを揃えた。
いついかなる時も万全な状態で敵へと挑む――それが冒険者たる者の心得だ。
長かった階段が終わり、開けた場所に出る。
ここがダンジョンの最下層部、『英雄の墓場』と名付けられた鍾乳洞だ。
いかにも、これからボス戦ですと言いたげな空気が漂っている。
全神経を集中させ、周囲を探索していると、洞窟の奥に二つの青い炎が灯った。
ゴゴゴゴと不気味な地鳴りが響き、洞窟の天井からパラパラと岩の破線が降り注ぐ。
巨大な影がゆっくりと立ち上る。
口角から後頭部へと伸びる双角。額に輝く菱形の藍のクリスタル。
全身を包む漆黒の鱗はまるで鎧。
混じり気のない黒の体躯は、鱗の上からでも変わるほどの筋骨隆々で、背には棘のついた翼。
今まで倒したどのモンスターよりも凶悪で、恐怖すら超越する荘厳な風格。
長く撓(しな)る尾は、一振りで、その辺の壁や岩石を粉砕できるのだろう。
そして炎だと思った蒼い光は、暗黒龍の巨大な双眸だった。
「こいつが――七龍王が一角、煉獄の暗黒龍」
呟いた途端、蒼の相貌がギョロリと動き、私を捉えた。
暗黒龍の口が大きく裂ける。