最強の暗黒龍は喪女にゾッコン ~VRMMOの裏ボスが子作り前提で求愛してきました~
恋愛ジャンルのヒロイン達は、攻略対象に迫られると動けなくなる。
蹴るか、殴るかして逃げろよ、と突っ込んでいたが、今なら彼女達の気持ちが分かる。
どうしよう、本当に動けない。
「最弱種族の雄の臭いか。ふん、気に入らんな」
「ち、ちょっと! 何してんですか、早く離れてください」
エヴィエニスさんは、どんどん不機嫌になっていく。
私は全身から変な汗がドッと流れ始めるし、最悪な展開だ。
さらに何を思ったのか、私の首筋に、頬を摺り寄せる。
「ひッ!?」
私の頬や首筋、肩と広範囲にかけて、スリスリと入念に自分の頬を擦り付ける。
こいつは、この私に何をしているんだ!? 寒くもないのに、ゾゾゾと鳥肌が立つ。
手に持っていた荷物が再び、ドサドサと音を立てて落ちる。
ちょっとだけ冷静になって考えてみよう。
うーん、どうやら電車や会社で付いた他人の臭いを、自分の臭いで上書きしているようだ。
足元に擦り寄ってきて、「お前も俺の縄張りの一部だ」と主張するネコかッ!?
そんな動物的な行動に動揺が隠せない。