月がみていて
「お母ちゃん。」

「なに?」

優しい瞳が 大好きだった

「ほっぺ、大丈夫?」

殴られた跡が(痣)にかわる。

「うん、痛いの痛いの飛んでいけぇ~!

ほら、ねっ!痛くないよ!」

「本間?」

「本間だヨ!!」

きれいな声、やわらかな口調。

「抱っこ!」

「おいで!」

ふくよかな胸と母の匂い…

「もう離さないから!!」

「えっ?」

明るくて 太陽みたいで

温かな手が アタシを包む

「お母ちゃんー。」

大好きだった あの夜まで

頼りにしていた。幸せだった。


―でも今は、もういない

「お母ちゃん」と呼んでも返事すらなく抱きしめてくれる手や

冗談を言ってくれる微笑みも…。

―そう、今はもういないのだ

アタシ 小四の夏休み前日

お母ちゃんと弟は いなくなった

アタシの前から 消え失せた

夏だというのに 部屋は冷たく

家は静かで…。

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