ふたりの関係には嘘がある~俺様エリートとの偽装恋愛は溺愛の始まり~
私の言葉を遮り、被せてきたのは、実松くんだ。
隣を見上げると、ニコリと微笑まれた。
「俺は恭子を手放すつもりはありません。それに、恭子も俺から離れるつもりはありません。それに」
そこまで言うと、実松くんは志摩くんの方を見た。
「キッカケがなんであれ、彼女と10年別れなかったのは、単純に彼女が好きだからだろ?彼女を手放したくないんだよな?」
実松くんの質問に、志摩くんは視線を及川さんに下げてから、少しの間のあと、笑って答えた。
「そうだな。こんなに俺のことを好きになってくれる女性はほかにいないだろうし。手放したくはないな」
「千葉さんのことは?」
及川さんが弱々しく訊ねた。
それに対して志摩くんは、私ではなく、きちんと及川さんを見て答えた。
「恭子のことは多分、ずっと好きだよ。でも咲良と別れてまで手に入れようとは一度も思わなかった」
「千葉さんがあなたを好きだと言っても?」
及川さんが志摩くんに質問を重ねた。
こういう時でないと聞けなかったのだろう。
その想いがヒシヒシと伝わってきて、胸を打つ。
志摩くんを見れば、やはり胸を打たれたようで、不安にさせてごめん、と謝った。
「万が一、恭子が俺を好きだと言ってくれても、どんな時も側にいてくれた咲良との思い出には勝てないよ」
はっきりと言葉にしてもらって、及川さんの表情は幾ばくか和らいだ。
それなのに、志摩くんは正直に話を続けた。
「でも、婚約したことで、俺を追い掛ける必要がなくなって、他の男に目が向くんじゃないかって、不安があったんだ。だから先に俺が他の女性に目を向けた」
群を抜くほど可愛い及川さんだ。
今も他の参加男性からの視線を一手に集めている。
不安になるのは当然のような気がした。
その反動で、私に気持ちがふらついたのは褒められたものではないけれど。
「私は離れないわ」
及川さんのはっきりとした声が響いた。
「誰に嫌われようとも、どんなことしても離れるつもりはないわ。他の男に目なんて行くはずないじゃない。千葉さんの彼にでさえ、心は動かない。そのくらい好きなのよ」
「嫌われるようなことはしないで欲しいけど、ありがとうな」
志摩くんは及川さんの真剣な告白に照れ笑いを浮かべていた。