ふたりの関係には嘘がある~俺様エリートとの偽装恋愛は溺愛の始まり~
「結局、ふたりに足りなかったのは言葉だったんだね」
誰もいないチャペルの一番後ろの席で、写真撮影の順番が回ってくるまで、実松くんと、志摩くんと及川さんのことを振り返る。
「カッコいい俺様を前にしても心が動かないとはよく言ったもんだよな」
及川さんの言葉を実松くんは思い出したようだ。
ククッと笑っている。
「真っ直ぐ過ぎてこっちが照れるよ」
「そうだね」
及川さんは志摩くんしか見えていないから、私たちのことなんて気にもせず、自分の気持ちを志摩くんにぶつけた。
「気持ちを口にするって大事だね」
あれだけ露骨に志摩くんへの想いを伝えている及川さんの行動でさえ、言葉には敵わなかった。
言葉にして初めて、志摩くんの不安は解消されたのだから。
とかく日本人は気持ちを押し殺しやすい。
でも、それではダメだ。
ふたりの結末を見て、つくづく思い知った。
それと同時に、私も反省した。
私も言葉足らずだ。
一番大事な人に、大事な言葉を言っていないのだから。
「私、千葉恭子は」
部屋の最奥に鎮座する祭壇。
そこに向かって言葉を発する。
「実松新を健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、その命ある限り、真心を尽くすことを誓います」
「覚えたのか?」
驚く実松くんにドヤ顔で頷く。
「覚えるのは得意なの」
「昔の記憶が曖昧だったくせに」
意地悪く言う実松くんに頬を膨らませて見せる。
「ハハ」
実松くんの笑い声がチャペルにこだました。
それから俺も負けてられない、と言い出し、実松くんは視線を祭壇へ向けた。
「わたくし、実松新は千葉恭子を健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓います」
実松くんは私よりもしっかりと台詞を暗記していた。
驚く私を横目で見て、ニヤリと微笑んだ。
「恐れ入りました」
深々と頭を下げる。
それからゆっくりと頭を上げると、実松くんは私の手を取り、私の目を見て、もう一度同じ台詞を口にした。