ふたりの関係には嘘がある~俺様エリートとの偽装恋愛は溺愛の始まり~

「美味しい」


実松くんが頼んでいたビールの銘柄は飲んだことがあるものなのに、喉越しがとても良かった。

直線的で飲み口が広めのタンブラーのせいだろうか。

グラスによって味が変わるという話を耳にしたことがある。

すっきりとした味わいのビールは値段さえ気にしなければ、どんどん飲めてしまいそうだ。

実松くんも、ゴクゴクと喉を鳴らし、美味しそうに飲んでいる。


「仕事後のビールは格別?」


プハッとグラスから口を離した実松くんに声を掛けると、クシャッと笑って言った。


「そうだな。別格だ。それと千葉。お前も別格」

「なんの話?」


今度は私が首を傾げて見せる。

すると、実松くんはもう一口飲んでから答えてくれた。


「俺、千葉のこと、ずっと前から好きだったんだよ」

「そんな素振り見せたことないくせに」


食い気味で返答すると、実松くんは肩をすくめて見せた。


「やっぱり。どう考えても私のこと好きじゃないもんね」

「いや。それは違う」


即座に否定されて、ビールグラスに伸ばしていた手を止めた。


「好きじゃなければ世話焼いたり、近寄ったりしない」

「それはガサツな私の行動に我慢ならなかっただけでしょ?」


実松くんは仕事の関係者だ。

気になることに口出しするのは普通のことのように思う。


それにこのタイミングで言う理由は分かってる。


「どうせ、尊敬する安藤さんに『付き合ったら?』って言われたからそんなこと言ってるんでしょ」


独り言のように呟くと、それを受けた実松くんはなにかを考えるように口をつぐみ、ビールグラスを傾けた。

無言こそ答え。

かと思ったら実松くんも小さな声で言った。


「そう思われると思ったんだよな」

「え?」


聞こえるか、聞こえないかくらいの声に、耳を寄せるように首を傾げれば、実松くんは淡々とした口調で続けた。
< 19 / 110 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop