ふたりの関係には嘘がある~俺様エリートとの偽装恋愛は溺愛の始まり~
「美味しい」
実松くんが頼んでいたビールの銘柄は飲んだことがあるものなのに、喉越しがとても良かった。
直線的で飲み口が広めのタンブラーのせいだろうか。
グラスによって味が変わるという話を耳にしたことがある。
すっきりとした味わいのビールは値段さえ気にしなければ、どんどん飲めてしまいそうだ。
実松くんも、ゴクゴクと喉を鳴らし、美味しそうに飲んでいる。
「仕事後のビールは格別?」
プハッとグラスから口を離した実松くんに声を掛けると、クシャッと笑って言った。
「そうだな。別格だ。それと千葉。お前も別格」
「なんの話?」
今度は私が首を傾げて見せる。
すると、実松くんはもう一口飲んでから答えてくれた。
「俺、千葉のこと、ずっと前から好きだったんだよ」
「そんな素振り見せたことないくせに」
食い気味で返答すると、実松くんは肩をすくめて見せた。
「やっぱり。どう考えても私のこと好きじゃないもんね」
「いや。それは違う」
即座に否定されて、ビールグラスに伸ばしていた手を止めた。
「好きじゃなければ世話焼いたり、近寄ったりしない」
「それはガサツな私の行動に我慢ならなかっただけでしょ?」
実松くんは仕事の関係者だ。
気になることに口出しするのは普通のことのように思う。
それにこのタイミングで言う理由は分かってる。
「どうせ、尊敬する安藤さんに『付き合ったら?』って言われたからそんなこと言ってるんでしょ」
独り言のように呟くと、それを受けた実松くんはなにかを考えるように口をつぐみ、ビールグラスを傾けた。
無言こそ答え。
かと思ったら実松くんも小さな声で言った。
「そう思われると思ったんだよな」
「え?」
聞こえるか、聞こえないかくらいの声に、耳を寄せるように首を傾げれば、実松くんは淡々とした口調で続けた。