ふたりの関係には嘘がある~俺様エリートとの偽装恋愛は溺愛の始まり~

「俺は安藤さんに言われる前から千葉のこと好きだと思ってた。でも、お前が俺を好きになる可能性は極めて低いと思ってたから言い寄ってくる女と付き合ってた」

「彼女いるのに、こんな話していいの?」


思わず口を挟むと、実松くんは怪訝な顔をして首を振った。


「どんな女と付き合っても、なんか物足りなくて、続かなかったんだよ。その理由は安藤さんが言ってた通り。『お互いにないものを求める』ってやつ。結局のところ、俺はずっとお前を求めてたんだ。お前と彼女を比較しては、やっぱりお前じゃなきゃ物足りないって思った」


そこでひと息ついた実松くんは、ビールを飲んでからまた私を真っ直ぐ見つめた。


「もう遠慮はしない。気持ちも隠さない。結果的に安藤さんに背中を押される形になっちゃったけど、俺は本当に千葉のこと好きだから」


今まで見たことのないような真剣な瞳に真っ直ぐ射抜かれて、胸が騒つく。

ただ、突然のことでどうしても信じ切れない。

それに告白されること自体、初めてで、動揺して正常な判断が出来ない。

困惑し、視線が泳ぐ。

そんな私を見兼ねて、静かで優しい声が掛かった。


「とりあえず付き合ってみないか?結婚を前提に」

「結婚?!…ってそんな簡単に決められるものなの?」


あまりに現実味のない話に、パッと顔を上げた瞬間、また店員さんが顔を出した。


「お待たせしました」


微妙な空気の中、続々と運ばれてくる料理。


「この話は中断。また店員に変な誤解されても困るし、なにより料理は美味しく、集中して食べよう」


実松くんが空気を変えるように明るく声を張り、シャツの袖をまくってトングでお肉を掴んだ。

煮え切らない気持ちが胸に渦巻いている。

ただ、焼肉で良かった点がある。

それはとても忙しいこと。

お肉を焼くことで、視線は網に据え置かれているし、サラダやスープやチヂミも分けなければならない。

手で肉を焼き、料理を口に運ぶ。

それを繰り返していれば、告白された直後でも、なんとなく普通に食事を取ることが出来た。

なにより、お肉が美味しい。

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