ふたりの関係には嘘がある~俺様エリートとの偽装恋愛は溺愛の始まり~
事務所に仕事を回してくれる実松くんともめ事を起こして依頼が来なくなったらどうするの、と言いたげな平井さんに即座に否定した。

平井さんは、私や実松くん以上に安藤さんの建築物のファンなのだ。

安藤さんが設計した建造物の前でモデルとして撮影をした際、そのデザインに惚れ込んだ平井さん。

安藤さんが独立すると知るなり、モデルを辞めて、事務員として雇って欲しいと懇願したほど惚れ込んでいる。


「もめ事は起こしてません」


真意を確かめるかのように鋭い視線を向けてくる平井さんに、もう一度違うとしっかり伝えた。


「じゃあ、なに?なんでふたりとも不自然なの?もしかして、こくは……」


『告白』という単語を予測した私は平井さんの口元に手を当て、言葉を制した。


「その話はランチの時でもいいですか?」


作業に集中している安藤さんの方をチラッと見れば、平井さんも納得して小さく頷いた。

それから席に戻って行ったのを見届けて、私も椅子に腰掛けた。



「それで?」


安藤さんが外出しているのをいいことに、お弁当を広げるまもなく、平井さんは話の続きを催促してきた。


「食べながらでもいいですか?」


念のため確認すると、それでいいと頷いたので、お弁当を食べながら、安藤さんと一緒に行ったランチの話から、実松くんに付き合おうと言われたこと、同窓会で好きな人に会えるかもしれないということを掻い摘んで話した。


「なんか、すみません。恋話に慣れてなくて」


上手く話せたかどうかがかなり怪しい。

恋話なんて他人の話はおろか、自分のなんて語ったことないから。

それだけ恋愛事に無関心だったとも言える。

私は絶対に建築家になるんだと、確固たる意志を抱き、ここまで突っ走って来た。

恋愛、友情は二の次、三の次にして。


「千葉さん、綺麗だからモテそうなのに」


本物の美人に綺麗と言われると、社交辞令にしか聞こえない。

だからそこは聞かなかったことにして、後半部分に返答する。


「自慢じゃないですけど、告白されたことないですし、男友達いないです」

「男女の友情なんて存在しないから、男友達がいないのは当然よ」


そう言い切った平井さんはコーヒーをひと口飲んでから、椅子の背にもたれて、長く細い足を組んで質問を投げかけてきた。


「千葉さんはどうして実松くんの想いに応えないの?」

「初恋の人を忘れられないからって話、しませんでしたっけ?」


話したはずだ、と遠回しに答えるも、首を左右に振られた。
< 25 / 110 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop