ふたりの関係には嘘がある~俺様エリートとの偽装恋愛は溺愛の始まり~
どういうことかと聞けば、実松くんがモデル経験のある美女(平井さん)を見る目と、私を見る目は全然違うと教えてくれた。
「それに興味のない人間の世話なんてわざわざ焼いたりしないわ。話しかけもしない。現に私にはほとんど話しかけないじゃない」
少し怒り気味の平井さんにこれ以上なにか言うのは違う気がして、黙ってお弁当を食べ進める。
すると平井さんは一度立ち上がり、コーヒーのおかわりを注いできた。
それからまた椅子に腰掛け、話を続けた。
「決定的なのは秘密基地の言い合いをしていたあの日。実松くんの、階段下の意見に対して千葉さん『ありがとう』って言ったでしょ?それまで険悪な雰囲気だったのに、それを吹き飛ばすくらいの満面の笑みで」
「それは良い案が出て、嬉しくて」
「そうね。千葉さんは本当にそれで微笑んだのよ。でも、あの時、千葉さんの笑顔を見て、実松くん、思わず胸元に手を当てたの。あの行動を見たら安藤さんも気付いたでしょうね」
だから安藤さんは、私と実松くんに『付き合ってみたら?』なんて話をしたんだ。
あの時、『今、閃いた』みたいな感じで話をしていたくせに。
元々、私たちを引き合わせるつもりだったんだ。
「してやられました」
ムスッとして言うと、平井さんはあっけらかんと答えた。
「いいじゃない。そういう流れでも。実松くん、いい男よ?」
それは重々承知だ。
今だに初恋の彼を胸の内に燻らせている私でさえ、初めて実松くんに会った時は、あの群を抜く見た目に目を奪われ、仕事に真面目な姿勢に刺激を受けた。
「でも、結局は初恋の彼のことが胸から離れないんです」
ここまで話したんだ。
正直に言うと、平井さんは首を傾げた。
「初恋の人のことくらい、みんな胸に秘めているものじゃないかしら?」
「え?そういうものなんですか?」
平井さんもそうなのかという意味を含めて聞いた。
でも、そこはスルーされ、私の話だけが進む。
「千葉さんは心も体も全部、ひとりの人を好きじゃないとダメなの?好きな芸能人とかいてもダメ?そもそも千葉さんの付き合う基準ってなに?現時点で好きじゃなければ付き合えないの?もしかして燃えるような恋に憧れてる?」
どれも合っているようで、違う。
恋愛経験がないから、なんて答えたらいいのか分からない。
「もう大人なんだから、そんな恋、無理よ」
悩む私より先に、平井さんが答えを出した。
「どうしてですか?」