ふたりの関係には嘘がある~俺様エリートとの偽装恋愛は溺愛の始まり~

「学生の頃は時間があるから純粋に相手を想い、恋を楽しむことが出来るの。でも社会人になったら仕事はあるし、時間は取れない。そしてなにより結婚が視野に入る」


そこまで言うと平井さんは立ち上がり、窓の外を見て続けた。


「結婚を視野に入れた大人は安定と安らぎを求めるの。胸キュン、盲目的な恋なんて学生まで。そんなことしてたら仕事に影響が出るし、社会で生きていけない」


トーンの落ちた声色に、今の言葉は私に向けられたものではないような気がした。


「もしかして平井さんも忘れられない人がいるんですか?」


哀愁漂う背中に向かって声を掛けると、今まで見た中でいちばん綺麗で切ない笑顔が返ってきた。


「ハイスペックな男性を捕まえても長続きしない理由はそれなんですね?」


念を押して質問するも、答えは返ってこなかった。

平井さんは頑なに実松くんを押すだけ。


「千葉さんにとって実松くんはとても都合のいい存在よ。言いたいことが言い合える存在なんて、なかなかいないわ。しかも相手は好きだと言ってくれている。こんないい話、断ったらもう二度と良縁はないわよ」

「そこに愛がなくても?」


話を少しだけ戻すと、平井さんはフッと小さく声を出して笑った。


「愛なんてちょっとしたことで芽生えるものよ。生理的に嫌いじゃなければね。ただ、千葉さんの場合、初恋の彼に決着をつけないと前に進めないみたいだから、早いとこ、告白でもなんでもして玉砕して来なさい」


玉砕って……。

両思いになる可能性はないのだろうか。

恋愛経験がなさ過ぎて、どうしたらいいのか、分からない。

私は玉砕覚悟で告白するベきなのだろうか。

相談する相手がいない。

ありがたいことに、仕事は年末でも分単位でスケジュールされているし。

結局、答えが出ないまま、あっという間に冬休みが来て、同窓会の日がやって来た。
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