ふたりの関係には嘘がある~俺様エリートとの偽装恋愛は溺愛の始まり~
「千葉ちゃん?なにしてんの?」
廊下で立ち尽くしていた私の名を幹事の珠ちゃんが呼んでくれたのだ。
生徒会長だった珠ちゃん。
三つ編み、眼鏡がトレードマークだったのに、今は毛先のカールした茶色のロングヘアに膝丈の清楚なワンピースを品良く着こなす大人の女性に変わっていた。
「珠ちゃん。連絡くれてありがとう。嬉しかった、です」
大人っぽくなった珠ちゃんを見て、どう接していいのか分からず、よそよそしくなる。
そんな私を珠ちゃんは満面の笑みで一蹴すると、背後に回った。
「みんな、千葉ちゃんのこと、お待ちかねだよ。早く入って」
珠ちゃんに背中を押されて、ツンのめるような形で会場内に足を踏み入れる。
それから恐る恐る視線を上げると、私を呼ぶ声が方々から聞こえた。
「あー!千葉ちゃんだー!」
「千葉ちゃん、久しぶりー!」
珠ちゃん以外も、みんな私のことを覚えてくれていた。
心配が杞憂に終わってホッとする。
仲間の輪に入り、笑顔を交わすうちに、10年前に戻った気がした。
でも思い出に浸るのもつかの間。
時間が経つにつれて、話にまったく付いていけなくなってしまった。
どうやら地元に残っていた仲間同志は、会社帰りに集まるなどして、交流を続けているらしい。
だから日常的な話題になると、出てくる名前が知らない人ばかりで、てんで分からなくなってしまう。
それなら、と他のグループに声を掛けてみた。
でも、既婚者は独身者には分からない苦労話で花を咲かせているし、勤務先や学歴による格差を話題にしているグループもあって、昔話で盛り上がっているような友達はほとんどいなかった。
初恋の彼もいないし。