ふたりの関係には嘘がある~俺様エリートとの偽装恋愛は溺愛の始まり~

「二次会どうする?」


ひとり食事を堪能している私に、珠ちゃんが声を掛けてくれた。


「そろそろここはお開きで、カラオケに行くつもりだけど」


そこに行ってもきっと私は話についていけない。

流行りの歌も知らないし。


「ここで失礼するね」


そう言ってから、二次会に行く友達に声掛けて、一足先に会場を後にすることにした。


「はぁ」


別になにかを期待していたわけではない。

でも思い描いていた同窓会とは違っていて、足取りは重い。

クロークで受け取ったキャメル色のノーカラーコートを見て、またため息が出そうになる。

久しぶりの再会に期待と不安を抱きながら、少しは良く見られるために、ボーナスを使って新調したのに。

気合いは空回り。

せめて彼にだけでも見てもらいたかった。

お腹もいっぱいにならなかったし。

どこかで飲み直そう。

そう思って外に出た時、背後から声が掛かった。


「恭子!」


私の名前を呼ぶ声。

それは記憶にある声より低かった。

高鳴る鼓動を感じつつ、振り返ると、その先にいたのは長身の男性。

ショートカットの黒髪に、小顔。

奥二重の瞳に薄めの唇。

涼しげで、爽やかな雰囲気はそのままなのに、どこか色気漂う出で立ちに、胸がトクンと反応した。
< 31 / 110 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop