ふたりの関係には嘘がある~俺様エリートとの偽装恋愛は溺愛の始まり~
「恭子だよな?もう、帰るのか?」
駆け寄ってきた彼は呼吸を整えながら答えを待っている。
それに対して私はすぐに答えることが出来なかった。
会えないと思っていた彼に会えたことが嬉しいのか、昔と変わらず名前を呼んでくれたことが嬉しいのか。
入り混じる感情がなんなのかは分からない。
ただ、とにかく私の心は浮上していた。
「恭子?」
少しだけ首を傾げて私の顔色を伺う彼に、笑顔を向ける。
「久しぶり。志摩くん。今、来たの?」
「あぁ。ちょっとゴタゴタしてて。でも良かった。恭子に会えて」
志摩くんはそう言うと、女性なら誰もが落ちてしまうような極上の笑顔を浮かべて言った。
「俺は恭子に会いたくて来たんだ」
私と同じ理由を口にした志摩くんに驚いてしまい、目を瞬かせる。
すると、志摩くんは照れたように後頭部を掻いてから、腕時計を見て言った。
「少し話したいんだけど、時間ない?」
「大丈夫。用事があって帰る訳じゃないから」
二次会に行かず、先に出て来た理由は曖昧に。
でも、志摩くんはそれ以上追求することなく、同ホテル内のバーに連れて行ってくれた。