ふたりの関係には嘘がある~俺様エリートとの偽装恋愛は溺愛の始まり~
入ってすぐにカウンター。
その奥にはライトアップされた中庭を見渡せるテーブル席。
隣のお客さんとの目線が合わないように気配りされた配置はさすがだ。
英国スタイルのクラシックなチェアも静かに流れるジャズも、落ち着いた空気感を創り上げている。
「気に入った?」
注文を済ませてから、職業柄、内装を見ていた私の耳に、志摩くんの柔らかな声が聞こえてきた。
隣の席に目を向ける。
そこには柔らかな笑みを浮かべた艶のある大人の男性がいた。
元々、カッコ良かったけど、大人の色気とバーの雰囲気が相まって、とても素敵だ。
「カッコいいね」
「ん?このお店?たしかにいい雰囲気だな」
グルリと店内を見渡した志摩くんに首を振って見せる。
「そうじゃなくて。志摩くんだよ。すごくカッコ良くなってて驚いた」
「恭子だって。凄い綺麗になってて、まだ驚いてる」
ジッと見つめられて、どうしていいか分からない。
視界を遮るように手のひらを振って見せた。
「褒めたって何も出ないよ」
「いや、ほんと、凄い綺麗になったよ。やっぱり掴まえておくんだった。でも結婚は、してないよな?」
志摩くんは私の左手に視線を下げた。
それに倣うように私も志摩くんの左手を見る。
そこには何も付いていない。
それから視線を志摩くんの目に向ける。
すると志摩くんも、私の方を見ていて、視線が交差した。
呼吸さえするのを忘れるほど真っ直ぐ見つめられて、全身が脈打っていることに気づいた時、カクテルが届けられた。