ふたりの関係には嘘がある~俺様エリートとの偽装恋愛は溺愛の始まり~
私用にモーツァルトの午後。
志摩くん用にジン・トニック。
乾杯を意味するようにグラスを持ち上げ、それからひと口飲む。
「わ。美味しい」
モーツァルトの午後はチョコレートリキュールであるモーツァルトリキュールを使った甘くて濃厚なカクテル。
飲みやすくて、私好みの味で、お酒が進む。
「大丈夫か?」
半分くらい一気に飲んだのを見て、志摩くんは私を心配そうに見てきた。
でも問題ない。
「私、お酒強いの。酔って記憶飛んだ、とか一度もない」
反対に実松くんはお酒に弱い。
それなのにお酒は好きらしく、テキーラとかの度数の高いアルコールにも手を出してしまう。
それで翌日二日酔いでツライとか言われても自業自得としか言いようがないのに。
でもなんとなく放っておけなくて、他社の人間にも関わらず、私も安藤さんも、事務の平井さんも、みんな実松くんの二日酔いのために、机の中に鎮痛薬を入れている。
几帳面だし、営業成績もトップという有能な人なのに、どこか抜けてて憎めなくて。
思い出すとなぜか口元が緩む。
あ、そうだ。
この前の焼肉のお礼に、ここのモーツァルトの午後をご馳走するのはどうだろう。
本当に味覚が同じなら、きっと気に入ってくれるはず。
ここの店のは本当に美味しいもの。
もうひと口飲み、甘い味を確認するように堪能した。
「そんなに美味いのか?」
志摩くんの視線の先を追うと、私の手元のグラスに向いていた。
「気になるなら飲んでいいよ?」
スッと志摩くんのいる右側に差し出す。
「じゃあ、遠慮なく、いただこうかな」
間接キスになると分かっていても、そこに故意的な意味がなければ意識する必要はない。
グラスを傾けた志摩くんの感想を待つようにジッと見る。
すると直後、グッとむせた。