ふたりの関係には嘘がある~俺様エリートとの偽装恋愛は溺愛の始まり~
「大丈夫?」
「悪い。でも、こんな甘いとは思わなくて」
知らないで飲んだらこの反応になるのかもしれない。
「俺には合わないな」
そう言われて戻されたグラス。
それが妙に可哀想に思えて。
引き寄せ、両手で優しく包み込んだ。
「ところで、恭子は今、何の仕事してるの?」
ジントニックで味を切り替えた志摩くんが話を振って来た。
「親戚の建築会社で働いてるの。あ、もし、リフォームとか新築とかあったら言ってね。まだ駆け出しだけど頑張って設計するから」
鞄から名刺入れを取り出し、志摩くんに差し出す。
「じゃあ、俺も」
そう言ってジャケットの裏から名刺入れを取り出した志摩くんから名刺を受け取り、目を通す。
「総合商社?すごいね」
「すごいのは恭子の方だろ。建築家になりたいって小学生の頃からの夢、叶えてるんだから」
自分の夢を話したのは、小学生の時に書いた作文を読んだ時だけ。
それなのに覚えていてくれたことに驚きを隠せない。
「あ、ほら、あの時、ちょっと険悪になったから」
それで覚えてくれていたのか。