ふたりの関係には嘘がある~俺様エリートとの偽装恋愛は溺愛の始まり~
あの頃は自宅を新築している最中で、両親のあとをついて行っては、家が出来上がっていく様子を見ていた。
ただの木が、骨組みとなり、屋根となり、床となり、形になる。
精密に用意された木と木がぴったり合わさる瞬間はとても気持ち良く、いつまででも見ていられた。
だから私は木造建築にこだわって仕事をさせてもらっている。
かと言って、コンクリートの建物をやらないわけではない。
建築士と何度もやりとりをして、設計された家が出来上がっていく様を見ては顔を綻ばせる両親を見て、誰かのために作って喜んでもらえるのって、素敵だなって思ったから。
どんな形であれ、幸せのお手伝いが出来るなら、私のこだわりなど、捨てる。
もちろん、安全性などの捨てられない事象もあるけれど。
ただ、この夢を語った時、同級生からバッシングを受けた。
『幸せの手伝いなら建築家でなくても出来ると思います』
当時の担任が他の生徒に感想を求めたのが発端にしても、自身の夢を語っただけなのに、なぜ否定されなくてはいけないのか。
『建築家って男の職業だと思います』
女性の建築家だっている。
知らないだけだ。
私は反論した。
それなのに先生は私の意見に聞く耳を持たず、『新築してることの自慢に聞こえてしまったのかもしれませんね』なんて言って話を勝手にまとめた。
納得いかなかった。
授業をボイコットしなかった自分を褒めてやりたい。
それと、建築家になったことも。
絶対に建築家になってやると決意したのはあの瞬間だから。