ふたりの関係には嘘がある~俺様エリートとの偽装恋愛は溺愛の始まり~
「ある意味、あの先生のおかげかな」
思い返すように、遠くをぼんやり見つめていると、志摩くんの手が私の頭をポンポンと優しく叩いた。
「偉いな」
「なにが?」
首を傾げると、頭から手が離れた。
それから志摩くんはジントニックの入ったグラスに触れ、透明な液体を見ながら静かに言った。
「人を責めない姿勢。なんでも前向きに捉える考え方。夢を否定してきたヤツでも嫌わない。そんな恭子のことが昔から俺は好きだよ」
言い終えると同時に私の方を向いた志摩くんの目は真剣で、突然の告白に鼓動が加速していく。
「恭子は恋人いる?」
ここで私も気持ちを伝えれば、人生初の恋人が出来るかも。
しかも相手は長年想い続けてきた志摩くん。
「私も……」
全身が緊張と興奮で声が震える。
飲み物を飲んで一旦落ち着こう。
そう思って、モーツァルトの午後を見た瞬間、脳裏に実松くんの言葉が過った。
『恋人がいることを願う』
そう言われたことを思い出し、自分の話をする前に同じ質問を返すことにした。
「志摩くんは恋人いないの?」
この質問をしたのは正解だった。
傷付くことを未然に防げたから。
心の中で実松くんに感謝した。