ふたりの関係には嘘がある~俺様エリートとの偽装恋愛は溺愛の始まり~
嫉妬
「それで?」
年始の挨拶もそこそこに、初恋の彼とどうなったかを聞いてきたのは平井さん。
安藤さんがいない時間を見計らい、私の隣の席に腰を据えた。
「初恋の彼とはどうなったの?」
答えるまで解放してやらないという確固たる意志なのか、私との距離を縮めてくる平井さん。
「私の話、楽しんでます?」
正直言って、平井さんとは実松くん同様、今までプライベートな話はしてこなかった。
職場の同僚という割り切った仲だったのに、実松くんの一件から関係性が変化している。
「面白がってますよね?」
もう一度聞くと、平井さんは真顔で頷いた。
「私、恋話、好きなの。ずっと千葉さんにこの手の話が起きるのを心待ちにしてたのよ」
恋多き女性である平井さんにとって、私との距離感を縮めるには恋愛しかなかったのかもしれない。
その機会を伺ってくれていたことは素直に嬉しい。
関係を割り切っていたのは私だけ。
たった三人の職場だ。
こういう話は苦手にしても、仲良くなるきっかけになるなら話そう。
良い助言が貰えるかもしれないし。
マウスを操作していた手を止め、平井さんの質問に答えることにした。
「彼には婚約者がいました」
「へぇ。それは残念だったわね」
抑揚のない言い方は本当にそう思っているのか怪しいところだ。
でも変に同情されるよりマシ。
話がしやすい。
年始で急ぎの仕事も今のところないし。
席を立ち、コーヒーを淹れながら、話を続ける。
「好きだ、って言われて一瞬期待したんですよ。でも付き合ってる人がいるの?って聞いたら婚約者がいるって言われて。もう、なんか拍子抜けしちゃって」
コーヒーを手渡すと、平井さんはカップを握りしめたまま首を傾げた。
「婚約者がいながら、好き、って言う意味が分からないわね」
「彼はずっと告白出来ずに後悔していた気持ちを、結婚する前に精算しておきたかったらしいです」
「随分と身勝手な理由ね」
たしかにそうだ。
あの時、勢いに任せて私が告白したらどうしていたのだろう。
いや、それは結果論。
「私は志摩くんが幸せならそれでいいって、今も昔も思うんです」
実際に会って、話をして、気持ちに区切りがついた。
「それなら、なんのわだかまりもなく実松くんと付き合えるわね。この話聞いたらきっと喜ぶわよ」
それはどうだろう。
ただ、志摩くんと話していても実松くんのことが脳裏に浮かんだのは事実。
このことには真摯に向き合わなければならない。
中途半端なまま実松くんの気持ちに応えてしまって、どこかでまた悩む事にならないように。
後悔しないように。
傷付けないように。
「でも、どうしたら」
悩み、頭を抱える私の側で電話が鳴った。
それを平井さんが取り、なにやら話を始めた。
「とりあえず私も仕事しよう」
実松くんとのことはまた落ち着いてから考えることにして、今は仕事に集中する。
そう思って建設中の資料を手に取った時、平井さんが私の肩を叩いた。