ふたりの関係には嘘がある~俺様エリートとの偽装恋愛は溺愛の始まり~
「実松くん、年始早々、熱出して動けないんですって」
電話の相手は実松くんだったようだ。
年始の挨拶に伺えない旨を伝える際、理由を話したらしい。
「大丈夫なんですか?」
「どうかしら?声は辛そうだったけど」
平井さんはそこまで言うと、私の方を見て、ニヤリと微笑んだ。
「お見舞い、行ってあげたら?」
そう言われても自宅がどこにあるか知らない。
念のため。
『大丈夫?』
メールをしてみた。
けど返信は1時間経っても来ない。
実松くんの容態が気になる。
そこへ安藤さんが戻ってきた。
「え?実松来られないの?」
風邪を引いた旨を平井さんから聞いた安藤さんが、困った声を上げた。
「どうかなさいましたか?」
平井さんが聞くと、急ぎの資料を実松くんが持っていると言う。
「それなら……」
話を聞いた平井さんが私の方をチラッと見た。
それに対して首を傾げると、顎で『こっちに来い』と指図されたので、立ち上がり、側に行く。
「千葉さんが取りに行ってきてくれるそうです」
「え?!そんなこと言ってない……」
平井さんの言葉を否定する。
それなのに安藤さんは、平井さんの言葉だけを耳に入れていた。
「恭子。行ってくれるか?俺、このあとも予定ぎっしりなんだよ。直帰で構わないから」
売れっ子建築家は年始の挨拶やら、賀詞交換会などで忙しい。
その人を前に首は振れず。
実松くんの住所を教えてもらい、上司命令という名目で地図アプリ頼りにやって来た。