ふたりの関係には嘘がある~俺様エリートとの偽装恋愛は溺愛の始まり~
「本当にここに住んでるの?」
マンション名は安藤さんが書いてくれたメモの内容と同じだから間違ってはいない。
でも明らかに高級感漂うデザイナーズマンションは社会人三年目の25歳が買えるとは到底思えない建物だ。
疑いを持ちつつ、エントランスに設置されてある機械に、実松くんの部屋番号を打ち込み『呼出』ボタンを押す。
『はい。ゴホゴホッ』
声が枯れ、むせているけど、その声はたしかに実松くんのもの。
「千葉です」
『あぁ。安藤さんから聞いてる。どうぞ』
オートロックが解除され、エレベーターで5階へと昇る。
それから部屋の前のインターホンを鳴らすと、おでこに冷えピタを貼った、上下スウェット姿の実松くんが出て来た。
「具合相当悪そうだね……」
熱が高いのだろう。
頬は赤く、体は小刻みに震えている。
「とりあえず上がって」
そう言う声も掠れている。
靴を揃え、実松くんの背中を追えば、その体は少しフラついていた。
「広い……」
実松くんの具合も気になるけど、通された内部を見て圧倒された。
30帖近いリビングに、10帖前後のベッドルームが2部屋。
ルーフバルコニー付きで、トイレはふたつ。
ざっと見た敷地面積は150平米以上だ。
「こんなに広いところにひとりで住んでるの?」
「なに?女の影でも疑ってんの?」
声は弱々しいくせに、からかうような口調を真面目に否定する。
「違う。あまりに広くて殺風景だから。体が弱っている時には心まで弱りそうな気がしたの」
「それは俺にない発想だな」
フッと小さく笑った実松くんは、実松家が代々続く資産家で、不動産をたくさん持ってること、このマンションが実松家のものであること、去年までは親子三人で暮らしていたけど、両親が最後に自分たちで家を建てたいと言って新築に引っ越したことを教えてくれた。