ふたりの関係には嘘がある~俺様エリートとの偽装恋愛は溺愛の始まり~
意を決して実松くんを見上げる。


「私、前向きに考える」


そう言っても、不安そうに、私の様子を伺っている実松くんの両手を恐る恐る取り、握る。


「私、実松くんの恋人になる」

「本当に?いいのか?」


話の流れから完全に振られると思っていたようだ。

驚きの表情をしている実松くんを見て、なぜか笑いがこみ上げてきた。


「『俺を振る女なんていない』んじゃなかったの?」

「いや、そうなんだけど」


納得出来ない様子の実松くんにひとつだけお願いすることにした。


「すごくわがままなことだと思うんだけど」


そう前置きしてから、ハッキリと口にする。


「私、実松くんの一番がいい」

「そのつもりだけど?」


眉根を寄せた実松くんに言葉を加える。


「私、自信がないくせに、プライドが高いの。だから今みたいに、本当は実松くんの過去に嫉妬してるのに、気にしてない風を装っちゃう。そのくせ、過去の彼女たちと比べられて、やっぱりダメだな、なんて思われたくないの」

「たしかにプライドが高いな」


実松くんは呆れたように微笑んだ。


「私だって、自分がこんなにわがままで、独占欲が強いとは思わなかったよ」


でも、実松くんと仕事の関係者としてではなく、大人の男女として過ごしてみて、昔付き合っていた人たちよりも、全てにおいて私が一番になりたいと感じたのだ。

元カノの思い出の残る場所は気がすすまない。


「モテる人を好きになるのに過去のことを気にしてたらキリがないんだろうけど」


ポツリと呟くと実松くんは握り締めていた手を引き、私を力一杯抱き寄せた。


「く、苦しい」


もがいてもその力は緩めることがなく。


「嬉しいこと、言ってくれるから」


実松くんはそう耳元で囁いた。

そして、少しだけ腕の力を弱めた。

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