ふたりの関係には嘘がある~俺様エリートとの偽装恋愛は溺愛の始まり~
過去の想い
「それで?」
私の仕事がひと段落するのを待っていたのは平井さん。
「とりあえずご飯にしましょう?」
ちょうどランチの時間。
私は持参したお弁当を、平井さんはコンビニで買ってきたサンドウィッチを向かい合わせで食べる。
「それで?付き合うことになったの?」
答えを聞くまでは食べる気にならないらしい。
「はい」
と答えたら、納得したのか、コーヒーを淹れてきてくれた。
「ありがとうございます」
「ううん。それより聞きたいんだけど、そうなると実松くんと結婚するの?」
唐突な話にお弁当の卵焼きが喉に詰まった。
淹れたてのコーヒーは熱いし、踏んだり蹴ったり。
「なんで、そんな話になるんですか?結婚なんて、まだ考えてませんよ」
落ち着いてから答えると、平井さんは「それならいい」と言う。
「先に結婚されたら癪じゃない?千葉さんは良いこと続きだし」
「どういうことですか?」
良いことは実松くんと付き合い始めたことのみ。
続いてはいないはずだけど。
「千葉さんご指名のお客様が来月いらっしゃるのよ」
「え?」
指名とは驚いた。
安藤さんの名を語っている当事務所に来る案件は、安藤さんに設計して欲しくてくるものだから。
今、請け負っている案件のように、相手先が女性建築家が良い、とか、実松くん経由で持って来てくれる話なら私が設計担当するけど、まさか指名だなんて。
「安藤さんも承知の話なんですか?」
事務職と言えども、安藤さんの秘書的存在の平井さんに聞くと、ひとつ頷いた。
初指名の仕事。
興奮と不安が入り混じる。
嬉しい気持ちと、やる気も。
「来月って言いましたっけ?」
「えぇ。名前は…また近くなったら連絡が来るはずだから、その時、お伝えするわ」
忘れたと言えないプライドの高さを目にしても、そんな些細なことどうでもいいとさえ思える。
それくらい、指名は嬉しい。
だって、どこかで私のことを知って、私の設計を認めてくれたからこそ、話を持ちかけてくれるのだから。
どんな人なのか、楽しみでならない。
1年近い歳月をかけて付き合っていくのだ。
気の合う人だとなお嬉しい。