ふたりの関係には嘘がある~俺様エリートとの偽装恋愛は溺愛の始まり~
「どうしたの?こっちだよ?」
今日は私が知っているお店に行くことになっている。
場所を知らないのかと声を掛けたのだけど、違うらしい。
「焼き鳥屋に行くのは今度にして、今日は家で飯にしよう。初めて指名もらったお祝いだ」
「まだ契約が成立したわけじゃないよ」
契約は実際に会って、話して、設計図や見積もりを見てもらって、それで納得して初めて、契約成立となる。
まだ指名の連絡が入っただけ。
だからお祝いの必要はなく、当初の予定通り、焼き鳥屋さんへと足を向ける。
「お祝いしてやりたいのに」
不満げな実松くんの気持ちが嬉しくて、甘えるように、思い切って腕を絡めてみた。
「契約成立したらお祝い、よろしく」
…って、あれ?
なにも返事がない。
調子に乗り過ぎてしまったのかもしれない。
柄にもないことをして呆れられたかも。
恐る恐る様子を伺うように見上げると、実松くんは顔を背け、口元に手を当てていた。