ふたりの関係には嘘がある~俺様エリートとの偽装恋愛は溺愛の始まり~
「デザートは買ってなかったもんな」
「うん。ありがとう。中身、なんだろう?」
実松くんの手元にある箱を覗き込むも、ヒョイと避けられた。
「中身はお楽しみ」
意地悪な顔して笑った実松くんは、楽しそう。
実松くんの自宅に向かっていることで、少なからず緊張しているのだけれど、自意識過剰と思ったほど、その時は、恋人の甘い雰囲気はなかった。
でも、その考えは甘い。
「なに買ってきたんだ?」
コートをハンガーラックに掛け、手を洗ってきた実松くんが、机の上に戦利品を並べている私の背後から覗き込んできた。
「サラダに、チキン、カップ寿司にコロッケ。あとは…って、なにしてんの?!」
背後にいたと思った実松くんは、いつのまにか私の背中にぴったりとくっ付き、腰回りに手を回している。
しかも、私の肩に顎を乗せて。
「いいだろ、恋人同士なんだから」
「これじゃ、なにも出来ないよ」
可愛げのない答えに自分でも呆れてしまう。
実松くんもそれが分かるのか、苦笑しながら、離れた。
「飲み物は?ビールでいい?」
言われて飲み物を買うのを忘れてたことに気付いた。
実松くんの家にビールがあって良かった。
お茶でもいいけど、アルコールがあるならそれに越したことはない。
意識しないようにしても、意識させられたスキンシップ。
シラフでは恥ずかしくてどうにもなりそうにないから、お酒の力は借りたい。
ただ、ひとりで飲むのは味気ない。
「送って行かなきゃいけないだろ」
ペットボトルのお茶をコップに注いでいる実松くんを止める。
「大丈夫だよ」
駅は近いし、電車の本数も多い。
わざわざ送ってくれなくても帰れる。
それなのに、頑なにお茶を注いでいるので、私も同じように、お茶を頂くことにした。