ふたりの関係には嘘がある~俺様エリートとの偽装恋愛は溺愛の始まり~
「大丈夫。無理強いはしないよ。絶対に。だから無駄な心配するな」
その言葉にホッと安心するのと同時に、ちゃんと私の様子を気にかけてくれていることを嬉しく思う。
「ごめんね。私、自分のことで精一杯で」
「謝らなくていい。けど、ひとつだけ聞いていいか?」
人差し指を立てた実松くんに「なに?」と聞くと、紅茶をカップに注ぎながら言った。
「初恋の彼のことは、どうして好きになったんだ?」
「実松くんじゃダメで、志摩くんなら良いって訳じゃないよ」
話の流れからそう答えるも、実松くんは首を振った。
「ただの興味本位だよ。ほら、こんなにカッコいい俺に出会っていながら、ずっと俺よりそのシマくん、とやらが好きだったんだろ?」
「それはちょっと違うかな」
正確には志摩くんへの想いがずっと胸のうちにあっただけで、平井さんに話した通り、実松くんに対して惹かれることはあった。
それが恋心としてあり続けなかっただけ。
でも結果的に恋心になり、現在に至る。
ただ、志摩くんのことを実松くんが知りたいと言うなら隠すようなことじゃない。
ケーキを食べながら、志摩くんとの思い出話しをすることにした。
「実松くんはアリ地獄って見たことある?」
「は?アリ地獄?突然なんだよ?」
唐突な話の流れに、実松くんがケーキを食べる手を止めた。
「見たことある?」
重ねて聞くと実松くんは首を振った。
「私も見たことがなかったの」
中学の理科室に貼ってあったアリ地獄の写真。
どうしても本物が見たくて、中学二年の春、私は部活をサボってアリ地獄探しに精を出していた。