ふたりの関係には嘘がある~俺様エリートとの偽装恋愛は溺愛の始まり~
そんなある日。
『アリ地獄は雨の当たらない乾いた場所にいるから体育館裏の神社なんかいいかもしれない』
志摩くんの提案を受け、体育館が見下ろせる高さにある神社へ行った時、事件は起きた。
『やめてっ!』
崖の下から叫び声が聞こえた。
切迫詰まった声に志摩くんと一緒に覗き込むと、そこには学年一の美女の及川さんが男の先輩に捕まっていた。
嫌がる及川さんの腕を押さえつけ、制服のボタンに手をかけ、顔を近づける先輩。
同意のない、卑猥な行為に気分が悪くなり、私は嫌悪感をぶつけるように崖から飛び降りた。
高さは多分、三メートルくらい。
それでも怖さなんてなかった。
助けてあげたいという気持ちでいっぱいで、一心不乱に飛び込んだ。
その距離感は完璧。
見事先輩の背中に命中。
それから、着ていた体操服を、はだけて露わになっていた及川さんの肌を隠すように渡し、崖の上にいる志摩くんを見上げた。
「体操服ってジャージか?」
「違うよ。半袖のTシャツ」
私よりはるかに女性的な体つきの及川さんの肌を、男子に見せるのが可愛そうだった。
スポーツブラは着けていたし、どっちが背中だか分からないような自分の体なんてどうでも良かった。
でも、飛び降りてきてくれた志摩くんは、私の体を隠すように、自身のシャツを羽織らせてくれた。
あの時、私は初めてされた女性扱いと、志摩くんの匂いのする、私をすっぽり包み込むくらい大きいシャツに触れて、胸がトクンと反応した。
ただ、その気持ちに浸っている余裕はなく。
醜い顔で私たちを睨んでいる先輩と対峙しなければならなかった。