ふたりの関係には嘘がある~俺様エリートとの偽装恋愛は溺愛の始まり~
『ストーカーなの』
背中越しに聞こえた及川さんの消え入りそうな震えた声。
それを耳にしてふと、アリ地獄が頭に浮かんだ。
「アリ地獄のアリはね、前方に歩くことができないから、獲物が穴に落ちてくるのをじっと待つしかない、典型的な待ち伏せ捕食型なの」
「待ち伏せして罠を張って捕食しようとした先輩が重なった、ってわけか」
もっとも、アリ地獄のアリであるウスバカゲロウは、それが生きていく術だから仕方ない。
でも、先輩は人間で、ウスバカゲロウではない。
綺麗に羽ばたくことも出来ない。
『人間なら人間らしく正々堂々と恋をしろ!こんな風に待ち伏せして、捕食して、怖がらせて楽しいのか!』
唐突な物言いに先輩は混乱してた。
でもなんとなくバカにされたのは伝わったらしく、一気に頭に血が上った先輩は私をなぐろうとした。
それを庇ってくれたのが志摩くん。
『恭子!』
初めて名前で呼び捨てにされて、驚いた。
しかも志摩くんは私の体を抱き寄せ、片手で先輩の拳を受け止めたのだ。
掴んだ拳を跳ね除けた腕力にも驚かされた。
極め付けは、携帯でこっそり撮影していた動画を見せながら跳ね飛ばされた先輩に静かに言った台詞。
『今度、こんな事をしたら、この画像、ばら撒くだけじゃ済まないぞ。砂ぶち込んで生き埋めにするからな』
アリ地獄で頭がいっぱいだった私にとって最後の言葉には痺れた。
そして及川さんもこの一件で志摩くんのことを好きになり、積極的な彼女は告白して、志摩くんと付き合うことになった。