ふたりの関係には嘘がある~俺様エリートとの偽装恋愛は溺愛の始まり~
「まぁ、ピンチの時に助けてくれて、名前呼ばれて、優しく守られたんじゃ、好きにならない理由はないか」
「うん」
結局、アリ地獄は見つからなかったけど、志摩くんは私にとってのヒーローで、強烈な出来事のおかげで長年心の中に居続けていた。
あと、及川さんと付き合い始めてから志摩くんを避けるようにしていたのも大きい。
彼女に遠慮して、顔を合わすことも話すこともしなかった。
それはほとんど避けるような感じで。
感じ悪かったと思う。
でも、当時はそうするしか出来なくて、10年経った今も、婚約者に遠慮して気持ちを伝えることはしなかった。
傷付きたくないし、困らせたくなかったから。
結局、10年前と同じ。
恋愛に関しては中学生レベルなのだ。
そう思ったらなんだか笑えてきた。
「面白くないな」
低く硬い声が部屋に響いた。
目の前を見れば、実松くんの表情が険しい。
フォークを置き、席を立った実松くんに慌てて謝る。
「ごめん。実松くんにはつまらない話だったよね」
「いや。話を聞いたのは俺の方だから。ただ、他の男を想う彼女の顔は見ていられない」
私、どんな顔していたんだろう。
手で触ってみるけど、当然、分からない。
それに、きっとそういうことじゃない。
お皿とカップを重ねて、キッチンへと持って行った実松くんに続いて、同じようにキッチンへと入り、声をかける。
「嫉妬、してくれてるの?」
恐る恐る訊ねた。
すると実松くんは私の手からお皿とカップを取り上げ、それらをシンクに置いてからゆっくりと振り返った。