ふたりの関係には嘘がある~俺様エリートとの偽装恋愛は溺愛の始まり~
「よし。そういうことなら、恭子。今日はもう帰れ」
「え?でもまだ上がる時間には早いです」
時刻は16時半。
仕事もない訳ではない。
でも安藤さんは私のマフラーとコートを取り、無理矢理手渡してきた。
「実松を大事にしろって言ったばかりだろ。せっかく迎えに来てくれたんだ。急ぎの仕事がないならふたりの時間を大切にしなさい。これ、上司命令」
そう言われたら断れない。
平井さんの方を向けば、ニコリと微笑み、ひとつ頷いてくれたし。
「では、お言葉に甘えて。でも、こういうのは今日限りにしますからね。実松くんも、そのつもりでいてね」
公私混同はしたくない。
ピシッと言うと、実松くんも安藤さんも笑って頷いた。
「じゃ、お先に失礼します」
安藤さんと平井さんに見送られ、実松くんと並んで外に出る。
真冬の風が肌を刺す。
「うぅ。寒い」
マフラーを鼻の下まで引き上げる。
「それじゃ、前が見えないだろ」
実松くんに笑われても、下げる気にはならない。
むしろ顔を隠す口実が出来て良かった。
いざ恋人同士となると、照れくささがある。
それに急に職場にやって来て、勝手に安藤さんに交際宣言したことに若干、機嫌を損ねていた。
それが伝わるように、顔をあえて隠す。
「悪かったよ」
無言の抗議は、実松くんに伝わった。
「仕事終わるまで待ってようかと思ったんだけど、待てなかったんだ。ごめんな」
素直に謝られると何も言えないものだ。
この話はこれまでにして、これからどこに行くのか、それを聞こうとした。
その時。