ふたりの関係には嘘がある~俺様エリートとの偽装恋愛は溺愛の始まり~
見知った顔が目の前に飛び込んできた。
「あれ、志摩くん?」
10メートル程先で、どこか場所を探しているかのようにキョロキョロしているのは、たしかに志摩くんだ。
「知り合い?」
実松くんは私が志摩くんの方をジッと見ている視線に気付いたようだ。
「うん。あの初恋の彼」
正直に言ったのと、志摩くんが私に気付いたのはほぼ同時。
駆け寄って来た志摩くんは私の前で止まり、ホッとした顔を見せた。
「良かった。会えて」
「私に会いに来たの?」
聞けば志摩くんは小さく頷いた。
それから隣にいる実松くんを見た。
「まだ仕事の途中?」
実松くんのことを同僚か、関係者と思ったようだ。
間違いではないけど、訂正する。
「仕事は今日がもう終わったの。これから彼と帰るところ」
「彼?」
意外だと言わんばかりにキョトンとした様子の志摩くんに、恥ずかしながら、実松くんを紹介する。
「こちらは仕事の関係者で、私が今、お付き合いさせてもらっている実松新くんです」
手のひらを向けて紹介すると、実松くんはコートの下に着ているスーツの胸ポケットから名刺を取り出し、志摩くんに差し出した。
「実松新です」
「あ、ご丁寧にどうも。志摩公平です」
志摩くんは実松くんの名刺を受け取り、自身の鞄の中から名刺を取り出し、手渡した。
「へぇ。総合商社にお勤めなんですね。すごいですね」
「恭子と同じことを言うんですね」
志摩くんはポツリと呟いた。
それから実松くんの方を見て、私の方を見た。