ふたりの関係には嘘がある~俺様エリートとの偽装恋愛は溺愛の始まり~
「ご案内します」
そう言った時の中村さんの顔には柔らかな笑みがあるだけ。
余計な詮索もしてこない。
私の職業を聞くや否や、チャペルまで建物の中を案内しながら連れて来てくれたし。
さり気ない気配りは時期支配人に名乗りを上げているだけのことはある。
ただ、チャペルの前には5組もカップルが立っていた。
「これならわざわざ誘わなくても良かったんじゃないか?」
実松くんが中村さんに指摘した。
「実松の結婚式はここで挙げて欲しいと思ってたから、ずっと声を掛け続けて機会を待っていたんだよ」
中村さんはそう言うと、ぱちっと私に向かってウインクした。
それを見て、また実松くんが警戒し始めたので、中村さんは呆れて、スタッフの方に行ってしまった。
「友達相手になにしてるの」
やきもち焼きの実松くんを見て、呆れて笑えてくる。
「中村はあの通りカッコいいだろ?狙った女は必ず落とすんだ」
「私は狙われてないから大丈夫。それよりチャペルの中、見たいから行こう」
腕を引き、他の参加者に続いて中へと進む。
と、その時。
「千葉」
名前が呼ばれた。
その声は実松くんより低い。
実松くんと同時に振り返ると、そこには先日より少しだけ顔色のいい志摩くんが立っていた。
あえて私のことを苗字で呼んだ志摩くん。
その隣には色白のお人形さんみたいに可愛い小柄な女性が立っていた。
面影があるような、ないような。
どちらにしろ、可愛らしさは健在。
思わずジッと見つめてしまう。
すると女性が微笑み、私の方へと一歩近付いた。
「千葉さん、よね?久しぶり。お誘いありがとう」
ニコリと微笑んだ及川さんは隣に立つ実松くんを見上げた。
「そちらが千葉さんの彼氏ね。話は聞いてる。すごくカッコいいわね。ね?志摩くん」
同意を求められた志摩くんは、実松くんの方をチラッと見てから小さく頷いた。
「ふたりはいつ結婚するの?」
及川さんに聞かれて、両手を振る。
「私たち結婚の予定は」
まだない、と言いかけたのを実松くんが勝手に答えた。
「半年先なんです。おふたりは?」
「私たちもそのくらいかな?私の誕生日に合わせて結婚式挙げようって話してたから。ね?」
及川さんはまた志摩くんに同意を求めた。
それに対して頷いた志摩くんは、前を向いた。