ふたりの関係には嘘がある~俺様エリートとの偽装恋愛は溺愛の始まり~

「千葉さん。すごく愛されてるのね。羨ましいわ」


私たちの様子を後ろから見聞きしていた及川さんが、隣の席に座った時に話しかけてきた。


「志摩くんはあまり気持ちを言葉にしてくれないから」


不安を口にした及川さん越しに志摩くんを見ると、志摩くんはどこか遠いところを見ていた。


「そういえば及川さんは同窓会来なかったね」


話を変えると、及川さんは俯いた。


「私はみんなとそんなに仲良くなかったから」


そう言われても、その言葉を否定することも肯定することも出来ない。

だって、よくよく思い出してみると、私と及川さんの接点はあの事件の時だけだから。

それなのに、こうして再会し、隣同士でチャペルに座り、模擬挙式を見ている。

縁とは不思議なものだ。

そして結婚も。

神様の元で永遠の愛を誓い合う。

その相手は生涯ひとり、とは限らないけど、何億といる人の中からひとりだけを選ぶのだから。

及川さんには志摩くん。

私には……

挙式が始まり、自然と繋がれた左手。

その先にいる実松くんを見ると、視線に気付いた実松くんが優しく微笑みかけてくれた。

その笑顔に触れて、心が暖かくなる。

そういえば、いつだったか、平井さんが言っていた。

結婚は、恋い焦がれるような想いでなく、安定を求めるって。

取り繕う必要もなく、ありのままの姿を晒せる。

その相手は実松くんだ。

もちろんドキドキしたり、胸が締め付けられたりはする。

でも、実松くんが隣にいてくれるとしっくりくる。

告白される前、実松くんとは何年先も、何十年先も仕事で関わっていけたらいいと思っていた。

それって、何年先も、何十年先も実松くんと関わっていたい。

一緒に時を過ごしていきたい、ということだったのだ。

気付かなかっただけで、ずっと前から私は実松くんとの未来を描いていた。

未来が現実になることを、今は心から願う。



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