ふたりの関係には嘘がある~俺様エリートとの偽装恋愛は溺愛の始まり~
「よろしければウェディングドレス試着されませんか?」
チャペルから出たところでスタッフの方に誘われた。
でも私たちは結婚を決めているわけではない。
本気で式場を選ぶ人たちの迷惑になる。
だから断るつもりでいた。
それなのに、及川さんが私たちの背中を押す。
「千葉さんのドレス姿、見たいわ。彼もそうでしょ?」
聞かれた実松くんは曖昧に頷いた。
にも関わらず、及川さんは話を勝手に進める。
「見たいって。察してあげなきゃ。だから一緒に試着してみましょう」
強引に手を引かれ、 実松くんもまたスタッフに手を引かれて行ってしまった。
「わぁ!綺麗」
着る気なんてなかったのに、真っ白なウエディングドレスをいざ、目の前にすると、つい手を伸ばしてしまう。
「細身なので、こちらのタイプが似合うと思いますよ」
ドレスを手に取り、近寄ってきてくれたスタッフは年配の女性でネームプレートには矢野、と書かれていた。
矢野さんは今まで何十、何百と女性をここで見てきた方らしい。
それなら、と、矢野さんの目を信用して、ドレス選びは任せることにした。
「スタイルいいから、どれもお似合いになりそうで、決め兼ねますね。そうだ。ご主人の方を見て来ますね」
どうやら矢野さんは、実松くんの姿を見て決めることにしたようだ。
待つ間、ティアラやネックレスなどに手を伸ばす。
でも、いまいちよく分からず、サロン内にいる及川さんの方を見ることにした。
「それ、可愛いね」
及川さんが手にしていたのは背中に大きなリボンのついた総レースのドレス。
可愛い顔立ちの及川さんが来たら、まるでお姫様のようだろう。
でも真剣に選んでいる及川さんには私の声は聞こえないようで、返事がない。
仕方なくその場を離れようとした。
でも及川さんにはちゃんと私の存在は意識されていたようで、手にドレスを取りながら、実松くんのことを聞いてきた。