ふたりの関係には嘘がある~俺様エリートとの偽装恋愛は溺愛の始まり~
「まぁ!お似合いです!」
この台詞はとなりの試着室から聞こえたもの。
お人形さんのように可愛い及川さんだ。
見なくてもドレスが似合うことは簡単に想像出来る。
「これじゃ、引き立て役だな」
自分の姿を鏡で見て、肩を落とす。
「そんなことありませんよ」
矢野さんは優しい嘘をついてくれる。
それに、よく考えてみれば引き立て役でいいのだ。
今日の目的はあくまで志摩くんのマリッジブルーを取り払うことなのだから。
そう思い直してボンネとベールを選び、結ってもらった髪に付ける。
「あ、これ。なかなか良いんじゃない?」
自画自賛している外で、騒がしい声が聞こえてきた。
「まぁ!カッコいい」
「美男美女」
賞賛の声はおそらく志摩くんと及川さんに向けられたものだろう。
カーテンを少しだけ開けて様子を見れば、美しい花嫁姿の及川さんを見て、志摩くんの口元が緩んでいるのが見えた。
「ふふ。良かった」
ただ、こうなるととても出にくい。
矢野さんはなぜか出て行っちゃって、脱ぐに脱げないし。
「どうしたものか」
ウエディングドレス着て、腕組みする日が来るなんて想像しなかった。
「支度出来た?」
困り果てる私の背後から実松くんの声がした。
「ちょっと、待って」
「いや、開けるぞ」