ふたりの関係には嘘がある~俺様エリートとの偽装恋愛は溺愛の始まり~
「あれ?及川さんは?」
「恭子のドレスに触発されて、カラードレスも着たいって戻ったよ」
サロンの方を指差した志摩くんは、そのまま私のドレスに目を移した。
「馬子にも衣装でしょ?」
照れ隠しに言うと、志摩くんは柔らかな笑顔で首を左右に振った。
「綺麗だよ。すごく」
「ありがとう。でもやっぱり及川さんには敵わないなー。さすが学年一の美女だよ」
明るく答えると、志摩くんはフッと小さく笑った。
「やっぱり恭子は違うな。ちゃんと人のことを褒めてあげられる。俺、及川の人を見下したり、棘のある言い方をするところがすごく嫌なんだ」
もしかしたら、試着室で矢野さんを罵倒した声が聞こえていたのかもしれない。
慌ててフォローする。
「あれは、志摩くんに対する愛情表現だよ。及川さんがキツい言い方をするのは、志摩くんに関わる女性にだけでしょう?」
確証がないから確認するように聞いてみた。
でも、志摩くんは眉根を寄せて、首を傾げた。
「んーっと。なんて言えばいいかな。あ、ほら。及川さんは、志摩くんが取られるのが嫌だから、攻撃的なんだと思うんだよね。それって愛されてる証拠じゃない?」
言葉を足し、質問する。
それに対して志摩くんは何か考えるように視線を下げた。
どうやら答える気はなさそうだ。
だから私はカメラマンと話している実松くんの方を見て、言葉を重ねることした。
「前にね、彼が言ってくれたの。『俺から離れない保証が欲しいから結婚したい』って。あれ聞いた時、私、すごく嬉しかったんだ」
「及川も結婚すれば変わるって言いたいのか?本当にそう思うか?」
責めるような口調に今度は私が口を閉ざす。
だって、及川さんのことは志摩くんの方がはるかに詳しいから。
ただ、結婚相手に及川さんを選んだのは志摩くん自身のはずだ。
「及川さんを選んだ理由、聞いてもいい?」
質問の答えに代わり、質問を返すと、志摩くんは及川さんが着替えているサロンの方を一瞥してから、また私の方を見た。
「及川は弱い俺をも受け入れてくれるから」
志摩くんの言葉に黙っていると、言葉が繋がれた。
「俺はすごく気の小さい男なんだ。好きな子をひとりでは守れないような。弱い男なんだ」