ふたりの関係には嘘がある~俺様エリートとの偽装恋愛は溺愛の始まり~
そんなことはない。
記憶にある志摩くんは強い人間だ。
「及川さんを先輩から助けた時、先輩に向かって行って、啖呵切ってくれたよね?あれ、十分、強いと思うけど」
「なに言ってるんだよ」
志摩くんは怪訝そうに顔を歪めた。
「あの時、俺は先生を呼びに行こうとした。それなのに、無視して飛び出したのは恭子だろ」
そうだっただろうか。
その部分は無我夢中で記憶にない。
「啖呵切ったことも。恭子の前でカッコつけかっただけだ。それなのに結局、先輩に『はあ?頭おかしいんじゃないのか?』とか言われて、動画を撮ってた携帯は壊されて。その後もしばらくは先輩に仕返しされるんじゃないかって、ビクビクしてて、散々だったよ」
どうやら思い出は美化されていたのではなく、都合よく記憶が整理されていたようだ。
でも、先輩の仕返しに怯えていたことは覚えている。
だからあのあと、及川さんと一緒に生活指導の先生に事情を話し、先生たちの監視下に先輩を置いてもらえるようにしたのだ。
「志摩くんはちゃんと私たちを守ってくれたよ」
険しい顔の志摩くんに言うも、志摩くんは首を左右に振った。
「恭子を守ったのは及川だよ。『先輩が千葉さんを攻撃しないようにするには、私たちが付き合うことで先輩の目を私たちに向けるしかない。先生たちになんて任せていられない』って言い出したんだ」
ふたりが付き合い出した話に、そんな経緯があったなんて知らなかった。
驚き、言葉を失う私に、志摩くんは切なく微笑んだ。
「及川は身を呈して助けてくれた恭子のことを守りたい、って言ったんだ。告白の裏に、俺への好意があったのは確かだけど、その優しさに俺は心を動かされた」
その時を思い出している志摩くんの表情は優しい。
でも聞いておかなければならないことがある。