恋を忘れた君に



その願いが叶ってか、二人はこちらに視線を戻してくれた。
早くこの人の隣から移動したい、と今までは動かなかった体が、解き放たれたように、勝手にななせに近づく。

そして、今まで何事もなかったように、

「店、予約してたわ。やばくない?」

と、相田さん。

「え、初耳なんだけど。何時に予約してるの?」

「19時半。」

皆が一斉に腕時計を見た。

現在時刻は19時25分。

「お二人さんがいちゃいちゃしてるから間に合わないかもね~。」

と、沢渡さんもこちらに近づいてきた。

「まあ、良いじゃん、5分10分くらい、お店も待ってくれるでしょ、ね。でもほら、急いで急いで。」

ぐいぐいと相田さんの背中を押すななせ。
私もそれに並んで歩いた。

沢渡さんだけだ少し離れて隣を歩いた。
私たちを見ながらくすくすと笑っている。

良かった、私も、沢渡さんも、普通だ。



結局、お店に到着したのは19時40分頃。
少し遅刻してしまったものの、お店の方の配慮により、問題なく入店することが出来た。
金曜日の夜、忙しい時間帯だと言うのに、申し訳ない。
お店は相田さんが準備してくれるのだけれど、毎度お洒落だ。
男性同士だとまた違ったお店に行っているんだろうけれど、こう言う所、女子に凄くモテそう。

通されたのは、そんなに広くはないけれど、4人では十分な個室。
席順は、ななせと私が隣。
相田さんと沢渡さんが隣。
勿論、ななせの前に相田さん。
本当は隣同士が良かったのかもしれないけれど、流石にそこは譲れません。
ただ、向かい合わせというのも意外と、きつい。
ななせと相田さんは何も問題ないだろうが、沢渡さんの目の前に座るのは、どうしたって彼の顔が目の端にちらつく。
どうしたら逃げられるか、考えても思いつかなかった。

「何食べる?俺は、此れと此れ、あと此れも食べたい。他は選んでいいよー。」


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