恋を忘れた君に
ティーカップもすごくおしゃれ。
ヨーロッパの貴族でも使っていそうな食器。
馬鹿なのでこんな感想しか出てこない自分の稚拙な脳みそを呪った。
食器に詳しくないから、どこのブランドのものだとか、どこまで価値のあるものなのか、まではわからないし。

「そういえば夢ちゃん、聞きたい事があるんだけど、良い?」

私が食器に夢中になっていると不意に声をかけられた。

「え、あ、はい、なんですか?」
「んー・・・答えたくなかったら、答えなくていいんだけど、ね。」
「?」

頭の上に?が浮かぶ。

沢渡さんは珈琲を一口流し込み、深呼吸する。
そんなに話難い事なのだろうか。
何か、そんな変な話したことあっただろうか。

「え、と・・・前に、蒼佑とななせちゃんと夢ちゃんと僕で遊んだ時、言ってた話。
「・・・あー・・・。」

露骨に嫌な顔をしてしまった。
でも、これだけは許してほしかった。
本当に触れたくない過去で、忘れ去りたい記憶であった。

「・・・どうして今更、そんな事聞くんですか?」

手元にあるティーカップに視線を落とし、問い掛ける。

「あの時も勿論気にはなったけど、蒼佑が止めて、聞けず終いだったから。」

いつものふわっとした口調ではなく、少しだけ、堅苦しい。
様子を伺うと、彼もまた、手元の珈琲に視線を落としていた。
この人は、私の話を誰かに言いふらしたり、笑いものにしたりはしないだろう。
根拠はないけれど、そんな気がした。



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