恋を忘れた君に
「あ、今から蒼佑くん来るって。」
ななせの携帯が光り、画面の通知を見ながら嬉しそうに呟く。
“蒼佑くん”とはななせの彼氏、“相田 蒼佑”さん。
その様子に、好きなんだなあ、となんだか私もほっこり。
「了解。空気読んで帰ったほうがいい?」
わざとらしく大袈裟ににやにやしながら聞いてやる。
「何で!一緒に話せば良いじゃん!どうせ何の予定も無いんだからさ~」
どうせ何の予定も無い。
どうせ何の予定も無いけど、改めてそう言われると何かが私の体をぶすりと刺す。
勝ち誇ったように微笑む彼女。
先に攻撃を仕掛けたのは私であり、私の完敗だ。
「・・・はいはい。どうせ帰れるなんて思ってないですよ。」
頬杖をつき、拗ねた表情を浮かべた。
「ふふん。・・・あ!来た来た。蒼佑くん!」
ななせが見つめる先を目で追いかけた。
手を振りながら人懐こい笑みを浮かべてこちらに向かってくる、二つの人影。
相田さんとは別に、隣の見知らぬ人。
私は 誰? と問いかけるようにななせを見つめた。
然しそんな私の視線は無視。
蒼佑さんに駆け寄り、熱い視線を向けていた。
まあ、そんな彼女が私は好きだから構わないのだけれど。
隣に居る謎の人物もきっと私と同じ気持ちなのであろう。
二人の世界に浸る彼らを暖かく見守っていた。