恋を忘れた君に
5 回想
あれは、中学1年生の時。
夏休みが明け、友達と久しぶりに会い、ちょっと皆何処か大人になっている、そんな気がしていた頃だった。
同じグループだった一人の女の子が、『一つ上の先輩に格好いい人が居る。』と言う情報を何処からか掴んできた。
バスケ部に所属している様で、連日体育館には人だかりが出来ていた。
何の人だかりだろうと不思議には思っていたが、正体はそれだった様だ。
私自身、あまり興味はなかったが、友達に連れられてその先輩を見に行くことにした。
見に行ったは良いものの、その人だかりの所為で姿を捉える事は殆ど出来なかった。
生憎、その先輩は身長があまり高くなく、余計に姿を捉えられなかったのだ。
諦めて帰ろうとした時、たまたま部活の休憩時間となり、部員の人達が給水の為ウォーターサーバーを求めて外に出てきた。
その時、まともに姿を見たのだがが、確かにイケメンであったと思う。
「なんだよー、またお前目当ての女子増えてねえか?モテる男は違うな~。」
「そんなんじゃないって!」
そんなやり取りの中、申し訳程度に、此方に向かって先輩が頭を下げた。
そんな何気ない所作でさえも、
「「「キャー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」
と黄色い声が飛び交い、耳を塞いだ。
その場の中でそんな不相応な行動をとったのは私だけで、目立ってしまったのか、先輩と目が合った。
すると、先輩は、
「ぶは、」
と吹き出し、私に向かって親指を立てた。
同時に、胸がトクンと脈打つのが分かった。
幸い、女子達はキャーキャー言っていたので、私に向けている事は気づかれなかったが、もう二度と来ない、と心に決めた。