恋を忘れた君に
未だ彼だけのようだった。
正直二人だけというのは、気まずい気がする。
この間遊んだ仲とは言え、連絡先も知らないし、何せ2回目。
幸い、向こうは気づいていないようだし、相田さんとななせが来るまでどこかに隠れていようか・・・
そう彼に背を向けた途端、
「夢ちゃん。」
その声と共に背中を突かれた。
恐る恐る振り返ってみると、まあ分かっては居たけれど、
「ぁ・・・沢渡さん。お久しぶりです。」
私は恰も、今気づきました、という風を装った。
「うん、久しぶりだね~。というか、さっき僕が居る事、気付いてたよね?何で声掛けてくれなかったの。」
この人はこう言う事突っ込んでくるタイプの人なんだ・・・メモ。
「い、やあ、えっと。ほら、まだ2回目だし、二人で居るのはちょっと緊張しちゃうかなって・・・すみません。」
丁度良い言い訳が思い浮かばず、正直に吐かざるを得なかった。
言い訳を少しでも考えたことも申し訳なくなってしまい、視線を泳がす。
「ふふ、大丈夫だよ。そんな所だろうなって思ったから。気にしないで、ね。」
前回にも見た柔らかい笑顔を浮かべ、許してくれる彼。
先週も思った事だけれど、彼の笑顔には人を癒す効果がある気がする。
「でも、あれだね、夢ちゃんて面白い人だね。」
「それは、どういう事でしょうか・・・?」
「んー?んー・・・何考えているのか凄く分かりやすくて、ちょっと意地悪したくなっちゃうなあって。」
何時もの癒される笑みとはちょっと違う、どこか黒さを感じる微笑みを浮かべ、そう、呟いた。
・・・は?
意地悪、したくなる・・・?
そんな事を言われたのは生まれて初めてで、寧ろ今まで何を考えているのか分からないとさえ言われてきた。
頭が回らず、暫くの間硬直。
どんな反応をすれば良いのか困っていると、
「あ、二人、来たよ。」
いつもの笑顔に戻り、二人に向かって手を振っている。
私の頭は未だ追い付かず、沢渡さんを凝視してしまった。
「夢ー?蓮くんの顔ずっと見てどうしたの?確かに綺麗な顔はしてるけどさあ。」
にやにやと楽し気な表情を浮かべながら問いかけてくるななせ。
「へ・・・?あ、いや。そう!改めて綺麗な顔してるなあって。ちょっと見惚れちゃったわ~。」
わざとらしく更に凝視。
苦しい言い訳だったかと心の中で頭を抱えた。
然し、相田さんが大声で笑いだす。
「あはははは!いや、夢ちゃんそれは面白すぎ!」
それにつられてななせも笑い出した。
そこまで大袈裟に笑われると急に恥ずかしくなってしまい、どうすれば良いのかわからず、苦笑いを浮かべた。