私はあなたのストーカーです
先生の昔話が聞けるのが、すごく嬉しい。
先生のオススメの本が読める日が楽しみで仕方ない。
これからずっと、先生と、毎日こんな風に過ごしていけるのかな。
嫌なこと、全部忘れて。
楽しいことだけしていられるのかな。
今は小町ちゃんがいるけど。
そのうち二人になって。
「あ、それで。ニックネームなんですけど」
「おう」
「なんて呼ぼうか迷います」
「じゃあ、チュウヤで」
ああ、その人なら知ってる。
「詩人の中原中也ですよね」
先生は、なにも答えずに微笑んでいる。
「私、教科書に載ってた『サーカス』って詩の独特なリズムが忘れられなくて。いつまでも頭に残ってるというか。『観客様はみな鰯(いわし)』の部分も……」
――違う。
「栗原、中也(なかなり)」
先生の下の名前だ。
「俺の下の名前、知ってたか」
「当たり前ですよ」
「たいていチュウヤって読まれるな。どこに三十で亡くなった文豪の名前つける親いんだよって思ってたが。三十年は生きられた」
そんな少年みたいな顔して三十年生きたって言われてもすごく違和感あります。
「なんでも好きに呼んでくれていいよ。気なんて使わずに」