私はあなたのストーカーです


『どんぐりって。“どんぐりの木”に、ならないの?』


子供というのは、なんでも知りたがるのですね。


どうして? なんで?
そんな疑問をよく口に出す子でした。


『ほら、見てみなさい。これは、アカガシという木です。隣のはシラカシ。どっちも、どんぐりがなっていますよ』


季節が変わると、


『あじさいキレイだね』


今度は、花に興味を持ちました。

それまでサクラが父とどんな生活を送っていたのかわかりませんが、あまり自然と触れ合ったことがなかったのではないでしょうか。


『紫陽花という花の色はアントシアニンという色素によるもので――土壌の酸性度で色が変わるのですよ。つまり。ええと、酸性ならば青。アルカリ性なら赤』


思えば私の話はその年の女の子には少々退屈だったかもしれません。花が綺麗ならそれでいいじゃないかと言われてしまいそうな話までしてしまっていたからです。


夏に花火をしても、やはりうんちくをたれました。仮にこれが恋人同士だったなら、ロマンチックの欠片もありません。


しかし、サクラは私のそんな話にも耳を傾け、微笑み、ときに外見に似合わず私を真似て小難しいことを言って喜んでいました。


『ハカセみたいだね。ナカナリは』
『ハカセってほど詳しくもないですがね』
『ふふ』


少年時代から理屈っぽければオタク気質な私を好いてくれるあの子が、心から愛しかった。


『今日は一緒に餃子を作りましょうか』
『ギョウザー!』


子供らしい一面はあるものの、あまり手のかからない子、という印象を抱きました。


公園へ行ったときもどこに出向いたときもそうですが、帰りますよと言えば、駄々をこねずに私についてきましたから。


聞き分けは良い方だったと思います。


だけど私はサクラのことをなにもわかってやれていなかったのです。

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