私はあなたのストーカーです
「移動教室なんだろ。さっき向こうで宮内たちとすれ違った」
「あ、はい」
「チャイムなってるぞ」
「……はい」
「どーした?」
「や、別に……」
「うお、それどうした」
「え?」
先生の視線が向けられたのは、筆箱だった。プラスチック製で、落とした衝撃でヒビが入り一部欠けている。
「さっき……うっかり、落としちゃって」
「新しいやつか?」
「へ?」
「いや、入学早々やっちまったのかと」
「……はい」
いいから急げって、叱らないのかな。
こんなとき、私の知ってる先生なら、とにかく授業に向かうように促すって感じなのに。
「あちゃー。それは痛いな」
「…………」
「かわいいのにな」
「え?」
「あ。生徒の持ち物にかわいいとか、セクハラだったかな」
そんなことを真剣な顔して言うものだから、
「あはは」
「笑うなよ」
「だって」
可笑しくて仕方なくて。
「元気出たみたいだな」
「え……」
「この世の終わりみたいな顔してたから。筆箱のことは、残念だけど。転んでケガとかしなくてよかったな」