伝説に散った龍Ⅱ
女が一人に、男が二人。
うち一人は、どう考えても見覚えのある顔。
「ああ、黒龍の」
「大正解」
ーー黒龍の観月柚くんです
頭から血を流す男を指差し、セリナはおどけた口調でそう言った。
「綺麗な顔だな」
「そうなの困ったことに女装したら多分私より美人なんだ」
「それは俺もだろ」
「…、ないない」
観月柚。
現黒龍幹部。
名の知れた男だ。
だから、俺たちの耳にも情報は割と早い段階で入ってきていた。
「で?どうしたらいい?」
「んーとね」
「ん」
「その女の子伊織って言うんだけど。ちょっと病院に連れて行きたくて」
「伊織ちゃんね」
「あ、彼氏いるから」
「別に狙わねえわ」
ーー『黒龍』
セリナがそこにいる、と。
「で、黒龍の他のは病院に引き付けて私が何とか誤魔化しとく」
「何を?」
「色々あんのこっちにも」
「あっそ」
どこか冷たい声が出た。
無意識に。
どうやら俺は嫉妬しているらしい。
「『こっちにも色々ある』ね」
「なに?」
「妬けるなあ、セリナちゃんよ」
「なに、雄大くん嫉妬してんの?」
「んーにゃ。何でも。続けて下さい」
いつの間にか壁が出来ていた。
俺たちとセリナの間に。
触れなければ気づかない、
しかしたしかにそこに在る
なんとも難解な感覚。
俺はそれを、そっと心に仕舞い込む。
「ーーそう。だからその間雄大くんちょっと柚のこと看ててくれない?」
「は?」
『病院に行くから』と言ったその言葉の先は
俺も
ましてや観月でさえ
予想だにしないであろうものだった。