伝説に散った龍Ⅱ
「え、なんで」
「すぐ迎えに来るから」
「ちょ、待ておい」
「時間が無いの!ごめんね雄大くん、よろしく!」
止める間もなく駆け出したセリナの背中を呼び止めるが、
当のセリナは『ごめん』と『よろしく』を繰り返すばかりで、立ち止まる素振りもない。
そのうち飄々と伊織ちゃんを担ぎ出したので、俺はとうとう頭を抱える。
「っ、おい!」
「目覚ましても私の知り合いだって誤魔化しといて!」
「待てって、」
「あ、あともう一人はそのままほっといていいから!」
あっという間に見えなくなった後ろ姿に苦笑する。
まったく。
懐かしがる暇すら与えてくれやしない。
「ーーさてと」
一度冷静になって辺りを見渡した。
観月柚を担ぎ上げる。
見た目に反して、程よく筋肉のついた体は想像以上の重量だった。
「…おうい」
「…」
「観月くーん」
「…」
「……派手にやられてんな」
後頭部からの出血は既に止まっていて、さほど量も多くはない様子。
…気を失ってるだけか。
数時間寝かせておけば目を覚ますはず。
経験上、なんの根拠もないがなんとなくわかること。
否応なしに思い出す、
あいつが居た頃の記憶。
「変わんねえな」
お前は、いつまで経っても。
ーーひらりと踵を返し、建物を後にする。
とその前に、もう一度その場を振り返った。