伝説に散った龍Ⅱ
観月のすぐ傍
もう一人、男が倒れていたが
セリナ曰く、そいつは放っておくべき相手。
手を貸すつもりか、哀れむつもりすらなかったが、何となく、本当に何となく振り返った。
…と言いつつ。
ある種期待のようなものに胸を弾ませていた。
そしてそれは
『セリナ』の痕跡への期待である。
「蛇、な」
男の裾口から伸びる真っ黒な腕を、這うようにして掘られた刺青。
蛇だろうか。
男の顔面をよくよく見てみれば、鼻柱はありえない方向に捻じ曲がり、加えて前歯も二本欠けている。
しかしそれでいて、体を全体的にに見れば目立った外傷は見られない。
セリナの友人、ーー伊織ちゃんの方がよっぽど凄惨な姿をしていた。
ーーそう。
それは紛れもなくアイツのやり方で。
俺の、求めていた痕跡だった。
「っ、はは」
乾いた嘲笑が口をつく。
『ーー雄大くん、っ』
どこからか、セリナの声が俺を呼ぶ。
その声音が
さっき会ったばかりの、円堂芹那のものなのか
はたまたあの頃のものなのか
今の俺には、見当もつかない。