伝説に散った龍Ⅱ
何も言わず、入り口の方に停めてあるゼッツーに歩み寄る。
そんな私にミオは何かを察したように小さく、
「行くのか」
と呟いた。
どこか哀愁漂う響きを感じとった私は、ゆっくりと瞬きをして、ミオに向き直る。
すっかり日陰になったミオの表情がなんだかみっともなく揺れていて
これも私のせいなんだろうなと
心の中で小さく、独白を零す。
分かってる。
全部、本気で分かってるつもりだ。
でもだからこそ、私は戻れないのだ。
彼らがどれだけ私を歓迎しようと
彼らがどれだけ私を求めようと
それは、縋ってはいけない藁の束。
…分かってる。
「ミオ」
もう行くね。
「…ん」
「ありがとう」
良い時間だった。
苦しげに1文字を吐き出したミオに
何の気なしにそう返した私は
程なくして、ミオの足が自分の方に一歩踏み出そうとしていることに気がついた。
その足が一瞬、躊躇ったように止まったのを視界の隅に捉え
コイツも分かっているんだろうな、と思う。
私がもう戻らないことを分かっているんだろうな、お前も。