伝説に散った龍Ⅱ
ーー柚と二人きりになるのは随分、久しぶりのことだった。
「…俺も」
「ん?」
「ありがとな、芹那」
思わずえ、と間抜けな声が漏れる。
驚くほど穏やかな笑みを浮かべる柚は
そんな私を見て、更に頬を緩める。
「なにが?え?」
「こないだ。公園で」
「…ああ、あれ」
「お前が居なきゃ殺してたな」
穏やかな表情のまま物騒な言葉を吐き出した柚に、素直にぎょっとした。
何拍か開けた後、誰のこと、と
下を向いたまま尋ねる。
「…だいたいが。俺が好きになったのはリルハの、根っから無邪気なとこだったんだよな」
『リルハ』。
あの子は今、何をしているんだろうか。
大好きなはずの柚とあんな別れ方をして
初めて会った女(私)に
大好きな人を連れて行かれて。
生きてるのかな。ちゃんと。
「お前とは真逆だった」
「悪かったですね、無邪気じゃなくて」
「そうやってひねくれてるとこ。お前のそういうとこ俺は人間らしくて好きだけど」
「…、」
「俺が何言っても楽しそうなんだ、あいつ」
「…うん」
「人は変わる。良くも悪くも、どっちかに転ぶんだな」
そうだね。
小さく頷いた。
柚は困ったような笑顔を浮かべる。
「…そういうこともあるさ。人生」
私は柚の肩をポンっと叩いた。
何様だよ、と笑う柚が
どこか愛おしかった。